十二月大歌舞伎/夜の部



兼ねてより預かっていた仕事、最初から「極力早く。」などという希望を出していたにも関わらず、肝心の箇所の指示を聞いても答えが無い担当者。
出来る所からと取り掛かってみたものの、これはこれで大問題発生で、悩み倍増のワタクシ。
そんなこんなで実は昨夜からどこか上の空。てか気付くと「仕事どーすんだよ…。」って。風呂に入っても体洗ったんだっけ?、髪は何回洗った?ってもうパンク状態(失笑)。
そしてようやく今日午前中に指示が来たものの、それ見てお悩み更に倍。
そんな状態で行ってきました、歌舞伎座夜の部。


いつも一日かけて昼夜通しで観るので、夜の部だけというのは初めて。*1
前述の通り、落ち着かない状態プラス今までに体験したことの無い行動パターンのため、どうも落ち着かない。
四時前に東銀座に到着するも、正面に出る口を利用せずに他の出口から出たら、もの凄い人の波で横断歩道が渡れない。
「何事ーっっ?」
と思ったら何のことは無い、丁度昼の部が終わってお客さんが出てきたところだった(苦笑)。
落ち着け落ち着け〜、と念じつつ、歌舞伎座到着。真っ先に歌舞伎茶屋に入って弁当を買う(笑)<落ち着き過ぎでは?
シネマ歌舞伎”の前売りを入口横で売っていたので買おうかと思ったのだけれど、日にち指定券では無かったので止める…。*2
そんなこんなのうちにようやく開場。
まず入口で筋書購入。更に西側売店に直進、舞台写真チェック&購入(苦笑)。そしてカレンダー売場へ行き、福助丈のカレンダーと…嗚呼、もう“江戸歳時記暦”は売り切れですか(涙)。
今日はロッカーを使用しようと思ったら、小銭が無い<お約束。残り二ヶ所しか無かったので焦りつつも、再び売店に出向き、猫ポストカードを…ありゃ…ホントに今月は『梅ごよみ』しか無いのね…。
ともあれ購入、急いで戻って無事残っていたロッカーに上着とカレンダーを放り込み、ようやく席へ。
今日は棚ボタ、ぴあのプレリザーブで取れた一桁列ドブ花横…。
何故ドブ側花横は、花道とびっちりくっついているのでせう(汗)。
「まぁまず福助さんは通らないだろうなぁ…。」
とハナから諦めつつも、取り敢えず間近ということで色々と期待でドキドキ。

御存鈴ヶ森



のっけから飛脚が通る(笑)。
その後、籠に乗った七之助くんが通る。*3
立ち廻りで七之助くんと雲助が来たりと、ドブで後姿がほとんどだと言っても、近い分迫力があっていい。通路が間に無い分、観辛いのもかなりのものだけど(汗)。あと近過ぎて役者さんが落ちてくんじゃないだろか、というハラハラ度も高し(笑)。でもこれは迫力と背中合わせか。
芝居の方は…うーん、基本的にだんまりの世界というか、暗闇の中での立ち廻りなのでそれぞれの役者さんがあらぬところを見ているのが不思議な感じ。
立ち廻りで切り落とされたりした手足などの表現方法(?)が面白かった。


七之助くん演ずる権八は、十七だか八だかだとのことで、そこらへんぴったり。凛とした姿が良い。
ただ何となく一味足りなかったような…理由はわからないけれども人一人殺して出奔した人物、というのが感じられなかったからかも。ちょっと涼やかすぎかなぁ。


橋之助丈は…うーんこれまた…。これは多分、私自身が作っちゃった“幡随院長兵衛”のイメージに合わない、ってところなんじゃないかと。*4
なんか橋之助丈の侠客っていうと、『夏祭浪花鑑』の徳兵衛が思い出されちゃってねぇ。
長兵衛ならもう少し、重みが欲しい感じ。

阿国歌舞伎夢華



こちらは花道をかなり使うという話を聞いていたので、玉三郎丈が近くで観られる〜!と楽しみにしておりました。
そして期待に違わず、まずは右近丈と猿弥丈が花道より登場。
更に玉三郎丈演ずる阿国が一座を引き連れてやってきたー!
ずらりと花道に並んだ姿は壮観そのもの。
しかも
「これホントに全員男ですかーーーーーーっ!」
と心の中で叫んでしまったほど…着物に綿が入っているとは言え、後姿でしゃがんでいるお尻が女だってば…(汗)。
今回、澤瀉屋さんの役者さん方を初めて拝見したのですが(多分。但し段四郎丈、亀治郎丈を除く、かな。)何と言うか、独特の雰囲気がある感じ。
もっともこの演目自体がちょっと普通の歌舞伎という感じで無かったから、とも言えるのかもしれませんが。
あと、番外的には、すっぽんを使う時には、あんなにモーター音がするもんなんだと…(笑)。


とにかく玉さん。
一座を率いて登場の際には、美しさに加えて貫禄というか。
でも後に段治郎丈演ずる名古屋山三と絡むと、一変して“女”なんだよねぇ。*5
一座の踊りを山三の横で崩し座りして観ている様なんて、もう何とも言えない色香が。
最後、山三がすっぽんから消えて花道に倒れ込んだ時も、投げ出された指先が綺麗で。
ただただため息、でした。


段治郎丈は前述の通り初めて拝見したのだけれど。
七月の『桜姫』の写真などを見て、がっちりした印象を持っていたのだけれど、実際にはとてもすらりとしていたのでちょっとびっくり。
玉さんとの踊りも綺麗だったなぁ。


そんでもって、芝のぶちゃん(笑)。
どーしても“芝のぶちゃん”なのである(笑)。
澤瀉屋さんのお三人より、贔屓目もあるのだろうけれども、ぶっちゃけ綺麗でかわいかったー。
この演目の後、彼が*6出る度に、心の中で
芝のぶちゃーん!」
と絶叫(笑)していた私でした(汗)。
てか実際、
芝のぶちゃん、芝のぶちゃんーっっ!!」*7
て、何度か口から出とったよ、自分(滝汗)。

たぬき



うおー、ようやく福助さん出ますー、ってんで興奮(爆)。
話の筋はとってもシニカル…てか、最後はやっぱり人間正直に生きよう、っていう。
途中は大笑い、だけど終わるとちょっと重いものが残る。それは決して嫌な感じのものでは無く、むしろ大事なもの。
しかし途中かなりきわどい場面なんかあって、幕間にいかにもお坊ちゃんという四〜五歳の男の子を目撃していた自分、いいんだろうか、と心配になりました(笑)。前の列にはお祖母ちゃんと一緒、といった感じの中学生くらいの女の子いたしなぁ(汗)。


遊び人の男が文字通り“生き返る”。一度は人間不信となって、最後にはまた人(家族)と暮らしていこうと、二度生き返る。そんな男を三津五郎丈が見事に演じていた。
最後、泣きながら笑って家へ戻ろうという花道の場面、本当に泣いていたようで…。三津五郎丈ってこういう芝居をする人だったっけ?と、ちょっとびっくり。


太鼓持の勘九郎丈。ぴったり(笑)。妹である福助丈との掛け合いやら、芝居茶屋での三津五郎丈との会話やら。
この後の『桃太郎』と合わせて、やはり生まれながらの天才だなぁ…と。


でーもって福助さん。
開演前に舞台写真見た段階で既に
「出たーーーーーー、妾の色香っっ!!」
という(笑)。
先月の『関の扉』の素晴らしさと言い、本当に今この方ほど色々な“女性”を演じられる女形さんはいないのではないかと思う。
この序幕のお染のような蓮っ葉な女なんかもうたまらんですわ(笑)。小気味の良さにゾクゾク。くるくる変わる表情と言い、細かい仕種と言い、一桁列だから…と思っていたのに、双眼鏡使いっぱなし(涙)。一時も目を離せません。
二幕目の神社での疲れた女の様子も絶品。三津五郎丈演ずる金兵衛を手玉に取っていた頃の面影は無く、帰ってこない惚れた男をののしりながらも待つ身の悲しさ。
実は金兵衛、を見て「違う。」と言ったのは、果たして本当にわからなかったのか、それとも…。
ちなみに話題の(?)着替えの時に影に乳がある、っていうのは、私のところからは部屋が丁度柱の影になってしまって見辛くて、確認出来ませんでした(汗)。*8
あと、最初の出、ぬか袋下げて湯屋から帰ってきたところも、ワタクシ筋書見ていた時のことで…あっと思った時にはもうぬか袋は手に…○| ̄|_。明後日は気をつけて観よう…。

今昔桃太郎



勘九郎丈四十五年の集大成。
正直途中で
「うーん…。」
と思ったところも何度かあったけれども*9、最後の場面はじーんときました。


妻と信じていた女は実は昔退治した鬼の娘、実直な下働きの男も鬼。
過去の栄光に胡坐をかいて愚行三昧、ぶくぶくに太った桃太郎こと勘九郎丈。
鬼の頭領の化けた薬売りの薬を飲んで踊りが止まらなくなって、踊りの見せ場を次々踊る様は圧巻でした。*10
最初、桃の木の幹に何やら穴があいていて布でふさいであるっぽいな、と気になっていたのだけれど、それはこの踊りの時に使う小道具を入れておいたんだ、というところがまた面白かった。ちゃんと後見さんいて、桃の木の裏で一つの踊りが終わる毎に痩せていくのを示すために、衣装を引き抜き(笑)していたのにわざわざ自分で扇子出したりって…(笑)。


犬の弥十郎丈、ラブリー♪(笑)<マジ。
あの鬘からしてなんかすごく可愛いし。
始めの衣装は“いぬ”とか骨の絵とか描いてあって楽しい。*11最後の鬼退治に向かう時の姿のぶち柄の袴も良い感じでした。*12


薬売り、実は鬼の頭領の三津五郎丈。人外の者らしくすっぽんより登場。
しかし手に持っていた何やら赤いものがぽとり。
やや慌てた感じで拾い、本舞台へ向かう。
薬を配り始めて、人見知りして隠れようとする宗蔵を手懐けようと…。
「坊や、この紙風船をあげよう。さっきちょっと落っことしちゃったんだけど。
って。
マジ落としたんですね(爆笑)。
しかし今日はこれ以外にも…どうも首から提げていた薬箱の紐、向かって左側が途中で切れてしまった模様。多分間違い無いと思うんだけど。*13でもあれ、みんなが薬で踊り狂っていた後ろで鬼の顔作るために隈取り描く道具と、裏側開くと鏡が付いていたっぽい。気付いたらドサクサ紛れ(?)に隈を描いていた三津五郎丈…(笑)。


実は鬼、の橋之助丈。何も自分では出来ないような子になるように育てた宗蔵のことを
「実の子供のように思っておりますー。」
って爆笑だってば。
ま、これは御愛嬌なんだけどね。


桃の妖精、福助丈…。不思議な役でした。
先月の小町桜の精と似た髪型のせいだと思うのだけど、古典的な役に見えて。
でも…桃の付いた杖、
「…仏壇の作り物の蓮の花に見える…○| ̄|_
ってちょっとなぁ(汗)。
頭に載せてた冠(?)も、割れた桃にラインストーンとか付いてて。
まぁこの“割れた桃”というのは桃太郎の母、って意味なんだろうけど。
ラメラメの目元はGoodでした(笑)。
あと、“精”ではなく“妖精”というところがツボなんじゃないかと密かに思っていたのだけど、それはやはり間違いではなかったようで。でもちょっと…あの説明・説教調の長台詞、言わなきゃ芝居が成り立たなかったんだけど、あそこで思いっきり現代劇になってたのが。もう少し表現方法に工夫が欲しかったなぁ。


小山三丈も外せません、えぇもう。
みんなが薬で踊り始めた時、小山三丈も踊ってたんで
「ひー、みんなと踊るですかー!」
と思ったのだけど、気付いたらしっかり引っ込んでいたのには笑った。そりゃ当然と言えば当然なんだけど(汗)。
あと圧巻はやはり最後…赤姫の如き拵え、凄かった(笑)。でもなんか良かったなぁ。


そしてそして又五郎丈。
勘九郎丈初舞台の際に、猿を演じた中車丈は既にこの世の人でなく。*14
雉の小山三丈は上記のようにお元気ですが、犬の又五郎丈…。
ぶっちゃけ最後にちょこっと出てきただけじゃんー、と言っちゃうとそれまでなんだろうけど、そんなこと言ったらバチ当たるわー!って感じ。
“長老の犬”という形で最後に出てこられただけで感動。
勘九郎”の長い歴史の生き証人。まだまだお元気で、是非とも来年の勘三郎襲名にも御出演して戴きたいものです。


歌舞伎座に舞った桃の花。
最後、本舞台の幕が閉まり、犬、雉、猿が物見に行ってしまった後に一人残った桃太郎。
いつの間にか日本中にはびこった鬼を退治しに、さぁ、これからだ、という門出。
四十五年前と変わらないような勘九郎丈のその姿に、芝居最初に流れた映像も相まって、思わずじんときた。
多分、御本人もそんな気持ちだったのではないかと思う。
そして花道を颯爽と引き上げて行ったのだけれど。
私の近くまで来た時、肩口からはらりと何かが花道へ。
「あれ?」
と思い、揚幕に勘九郎丈引っ込み、芝居終わりでお客さん一斉に帰り支度を始めたと同時に、花道の上をじっと見ると、やはり何かが…。
で、そこに手を伸ばしてぺたりと付いてみたところ、拾えたのがこの写真のもの。
舞台に降りしきった桃の花の花びら。
雪と違ってちゃんと花びらの形をしているんですねぇ。
紛れも無く勘九郎丈から落ちてきたもの。
記念です。

*1:以前母親と来ていた時には昼の部のみ、というパターンだったのだけど。あと八月は楽日に一部の二演目目幕見と二部を指定席で、ということもありましたが。

*2:一月演舞場夜の部を観に行く日に、直前の回を観るしか日程が空いていないので。この日見れなかったら切符がふいになってしまう。

*3:いかにも籠が軽々としていたのは気のせいでは無いだろう。相変わらず七之助くん細い〜!!

*4:去年の“團菊祭”の『幡随長兵衛』の印象が。團十郎丈の骨太さが強過ぎ。…團十郎丈の方が所謂“ニンが合ってる”ということになるのかなぁ…。

*5:背も殺してたし…。

*6:もう既に“彼”と書くこと自体、自分の中では違和感なんだけど(苦笑)。ホントどーしても男には見えない…俳優祭の時に握手して戴いて、確かに男性だと思ったけど…いやでもかわいかったなぁ(爆)。

*7:名前といい、一見するとまるでアイドルの親衛隊のようだ(笑)。

*8:その前に部屋で話しているところでは、胸元もの凄い開いててドキドキしたんですけど(爆)。

*9:確かに最後、桃太郎が初陣の姿で出てくるまでには時間がかるから仕方が無いのだけど、ちょっと鬼と村人たちの踊り、長すぎてダレた、とか。

*10:しかし知識不足のため、この踊りは何だったっけ…と悩むことしばし。だが途中で上手側にちゃんと演目が示されていたのに気付いて…倍がっくりした。鈍過ぎ、自分(泣)。

*11:猿の衣装には“さる”、とバナナが描いてあって、これまた楽しかった。

*12:三人吉三』の吉祥院裏をちと思い出したりもしましたが(汗)。

*13:ちなみに今年の納涼では、『蘭平』の時に妙に梯子逆さの時間が長いなー、こんなもんなの、と思ってたら、実は鬘が外れてしまっていて大騒ぎだった、ということからあったという…。アクシデント遭遇率高い?<自分。

*14:お位牌で出演というのが凄かった(汗)。