劇評

歌舞伎:十二月大歌舞伎(歌舞伎座) 2演目での初役際立った菊之助
菊之助の2演目での初役が際立った。昼の最初が「嫗山姥」の八重桐。色気と強さがあり、眼目の「しゃべり」も、めりはりが利いている。市蔵のお歌が軽妙だ。団蔵の源七が珍しい二枚目。夜が序幕の「神霊矢口渡」のお舟。義峯(友右衛門)に一目ぼれしてのうっとりとした風情から、六蔵(団蔵)をだまし、父を裏切ってまで逃す際の激しさ。一貫した性根が感じられる。富十郎の父、頓兵衛が見事だ。やぶを分けての登場にすごみがあり、短気な悪人が怒りを募らせていく様が活写される。引っ込みの技巧も見もの。団蔵の小悪党ぶりもいい。
  〜後略〜
毎日新聞 2006年12月20日 東京夕刊

写真は『神霊矢口渡』よりお舟(菊之助)と頓兵衛(富十郎)。