劇評
歌舞伎:「外郎売」「傾城反魂香」「大津絵道成寺」(国立劇場)
◇團十郎が実直で不器用な又平を好演
坂田藤十郎と團十郎が顔を合わせるほか、それぞれの得意演目をつとめている。
最初が、歌舞伎十八番物を團十郎が復活した「外郎売(ういろううり)」。團十郎の外郎売実は曽我五郎が、早口言葉の言い立てを鮮やかに披露する。明るさ、おおらかさが出た。芝雀の虎、彌十郎の工藤、翫雀の朝比奈、扇雀の舞鶴。
中幕が「傾城反魂香(けいせいはんごんこう)」の「土佐将監閑居」。團十郎が実直で不器用な又平の人柄をよく出した。将監に叱責(しっせき)された又平が、憤りを抑えかねて段の上に座し、自分を切ってくれと言い募るくだりに、一途(いちず)さがあふれる。死を決意した又平に女房のおとくが筆を用意する場面では、夫が心配で目を離せぬというおとくの心情を、藤十郎が活写。夫婦愛がにじんだ。彦三郎の将監は毅然(きぜん)とした中に、世渡り下手の弟子への情愛がうかがえる。亀鶴の修理之助がさわやかで、扇雀の雅楽之助が勇壮。右之助の将監北の方。
〜後略〜
毎日新聞 2009年11月16日 東京夕刊