八月納涼歌舞伎・第一部



今更なんだが書いておく。


◆18日 1階16列下手寄り中央

『慶安太平記



過剰に変な方向に立ち廻りを期待していたんでしょうか。物足りない気がしてしまいました。
屋根の上への捕り手に投げた刀が届かない、忠弥を取り押さえようと構えたさすまたの片方が折れている、など余計なところばかり気になってしまい、益々募る今一つ感。そういえば忠弥が掘に石を投げ入れて深さを測るところで、投げた石が“ガッ”と鈍い音を立てて堀を取り囲んでいた杭にぶつかり跳ね返ったらしい、ということもありましたね…。飽くまでこれは“らしい”、でしたが。*1手順と言うか流れとして、大仕掛けになるまであれくらいの長さが普通なんだろうと思うのですが、前振りが長いという感じもあったり。“立ち廻りの基本”といった形が続々出てきたので、そこらへんを楽しめれば良かったのですけど。
朝一番の立ち廻り、納涼、橋之助、と来ると、3年前の『義賢最期』を思い出します。予備知識無しで行ったせいもあったでしょうが、あの時の迫力というのは未だに忘れられません。今回もありました戸板倒しと、それより最後の仏倒れが凄かったですからね。直後に橋之助丈が『はなまる』に出られて、戸板倒しの連続写真を持ってきて解説をされたのが更に記憶に残る要因となったと思うのですが。*2どうにもあの時と比較してしまっていけませんでした。多分、自分の中で美化されている部分が大きいと思うのですが。
席のせいもあったのでしょう、ツケが弱く聞こえたのも迫力を感じなかった原因かと。強ければいいというものではありませんが、妙に軽くぱくぱくした音に聞こえました。あと下座がまったりしていたのもねぇ。『桜姫』の岩渕庵室の場の殺しの時と同じ下座だそうですが。歌舞伎は立ち廻りだからと言って、特に早い音楽などを使う訳ではないですけれど、どうにもあれは…。
前半の橋之助丈演じる忠弥の酔態が良かったと感じただけに残念。下座とか立ち廻りの尺に関してはどうにも出来ないものであると思いますので、最終的には私との相性が悪かったということでしょうか。
決してつまらない演目だとは感じなかったのですけどね。機会があれば再見してみたいです。

『近江のお兼』



馬が可愛かった(笑)。
そして1階席を取ってやはり正解だったなと。
3階からだと馬との絡みはほとんど見えないんでしょうねぇ。以前に観た時(勘九郎丈が踊った3年前の納涼)は間違いなく3階席だったんですけど、見えなかったという記憶が無く、馬との絡みは花道というのを覚えていたのは多分袖席だったからなんでしょう。
ところどころで我に返っては(苦笑)唄を聴き取るようにしていたのですが(普段、踊りはほとんど目の前で動く役者さんを観ることで頭が一杯の状態)、“團十郎娘”の詞がぴったりの元気なお兼でした。勘九郎丈の時にはどうだったのか流石に覚えていない(見えなかったんだと思うんですが。若しくはそこまで頭が回ってなかったか。全体の動きを見ていたのではと)のですが、表情豊かなお兼だな、という印象もありました。流石福助丈。

『たのきゅう』



ミニサイズ舞台装置にまず妙にウケました(笑)。と言うか私としてはこの演目、全編通して“ミニサイズ”というのがキーワードだった気がします。
初日に『八犬伝』を観た時、すっぽんからせり出してきたらしい(何せ3階の10列。花道の様子などわかりません)三津五郎丈が頭巾のてっぺんくらいしか見えなくて。「あそこは身が無い。」とか思ってたんですね<失礼な…。
そしてこの『たのきゅう』ではまず、馬車の馬の小さいのに「三津五郎さんサイズ。」とか思ってしまいました<物凄く失礼。
更に1階16列ということで、鳥屋から出てこられた瞬間を真横から拝見出来る席だった訳ですが、『慶安太平記』の橋之助丈といい、『近江のお兼』の福助丈といい、出てきた時の観る側の視線の位置が同じくらいだったんですね。で、そのつもりで視線を上げ気味にしていましたところ「あれ、見えな…。」と…。視線より下に三津五郎丈が(涙)。ついでに一座が同じく鳥屋から出てくるところでも「あれ?」。先頭は高麗蔵丈だったようで(泣)。
てなことはさておき<長過ぎ。
理屈抜きで楽しませて戴きました。題材が民話ということで、ほのぼのとした内容で。所謂歌舞伎的なところと現代の感覚の演技の部分がちょっと全体のバランスとしてどうかな、という気もしたりしましたが。
ドラムが趣味という巳之助くん、よもや歌舞伎座でドラミングを披露することになろうとは思わなかっただろうなー、とか、芝居小屋のお客の村娘役の芝のぶちゃんがかわいいなー、とかいうのもあったり。
花道での三津五郎丈のピース、舞台の方を観ていて「おや何か…。」と気付いて視線を移した時には手が戻るところだった、というのは“見逃した”ということですよね、残念。
それから小吉くんのお披露目という大事なこともあって。口上で座るのに袖口を揃える手の動きの美しさに、将来大物になるのでは、という気がしました。
更に三津右衛門丈の名題昇進のお披露目もあり、おめでたい華やかな一幕でした。


うーん、なんか全体的に辛口というか…自分自身のコンディションの問題がかなり大きかったんですね、この日。場内の雰囲気も盛り上がっていなかった気がしたりして、なんだか寂しさを感じたり。せっかく良い席で観たのに、無念。(2006.8.28 一部追記・誤字修正)

*1:でも音のした方向を見たら、石が舞台奥から手前に転がってきていました。

*2:ちなみに戸板倒しは、下に立てて支えにした戸板が倒れる時に綺麗に横に倒れないといけないとのこと。力のかかりかたが悪いと跳ね上がったりしてバランスが崩れて大変危険なのだそう。