劇評

歌舞伎:五月大歌舞伎(新橋演舞場) 法界坊の不気味さ、吉右衛門が活写
吉右衛門を中心に中堅、若手が活躍する。
昼の最初が「鳴神」。染五郎の鳴神は、たけり狂う後半が、形がよく迫力もあって優れる。前半はもう少しおおらかさが欲しい。芝雀の絶間姫は色気があり、盃事(さかづきごと)の運びもうまく、しめ縄を切る際の気組みもいい。続いて「鬼平犯科帳 大川の隠居」(池波正太郎作、岡本さとる脚本、齋藤雅文演出)。火付盗賊改方長官、長谷川平蔵吉右衛門)は、老船頭、友五郎(歌六)のキセルが、盗まれた自分の物であると気付く。密偵の粂八(歌昇)は友五郎の前歴を知っていた……。清濁併せ呑(の)んだ吉右衛門、誇りと屈折感がにじみでる歌六、平蔵、友五郎両者への思いがセリフの端々から知れる歌昇。3人の演技が絡み合い「世話物」の味わいが出た佳作。最後が「釣女」。歌昇の踊りの切れが良く、吉右衛門の醜女がユーモラス。錦之助の大名、芝雀の上臈とそろう。
  〜後略〜
毎日新聞 2007年5月16日 東京夕刊

写真は『法界坊』より法界坊(吉右衛門)。