劇評

歌舞伎:六月大歌舞伎(歌舞伎座) 藤十郎、自在のセリフで母の情表現
昼の最初が「妹背山婦女庭訓」の「小松原」「花渡し」「吉野川」。際立つのは「吉野川」。坂田藤十郎の定高、幸四郎の大判事、梅玉の久我之助、魁春の雛(ひな)鳥とそろう。藤十郎は気の張った部分と母の情を自在のセリフで表現。幸四郎は大きさの中に息子の死に臨んでも定高母子を気づかうようすを出して行き届くが、嘆きが過ぎて剛直な印象がそがれる時があるのが惜しい。梅玉は愁(うれ)いと気品、なにより毅然(きぜん)としたところがあり、優れている。魁春は死を決意しての後半がいい。
  〜後略〜
毎日新聞 2007年6月11日 東京夕刊

写真は『妹背山婦女庭訓』(吉野川)より定高(藤十郎)、大判事(幸四郎)。