劇評二題

歌舞伎:摂州合邦辻(国立大劇場) 一途な思い伝わる藤十郎の玉手
久々の通し上演で、「住吉松原」「高安館」「同奥庭」「竜田越」「天王寺南門前」「万代池」と順を追い、大詰めがおなじみの「合邦庵室」になる。山田庄一補綴(ほてつ)・演出。
全体を貫くのは河内の国主、高安左衛門(彦三郎)の妻の玉手(坂田藤十郎)が、義理の息子の俊徳丸(三津五郎)へ寄せる思い。高安家には跡目を狙い、俊徳丸を亡き者にしようとたくらむ腹違いの兄、次郎丸(進之介)がいる。玉手は俊徳丸の命を守るため、俊徳丸に言い寄り、相貌(そうぼう)を崩す毒酒を飲ませる。
玉手の俊徳丸への恋は大詰めで本人が述懐するように偽りか、それとも真実か。歴代の立女形がそれぞれの解釈で演じてきた役を、藤十郎は「真実の恋」として見せる。
  〜後略〜
毎日新聞 2007年11月15日 東京夕刊

写真は合邦(我當)、玉手(藤十郎)、おとく(吉弥)、俊徳丸(三津五郎)。

歌舞伎:吉例顔見世大歌舞伎(歌舞伎座) 芝翫の戸無瀬が悲劇をよく表現
昼は「種蒔三番叟(たねまきさんばそう)」で、梅玉の三番叟と孝太郎の千歳による顔見世の幕開け。
続いて「傾城反魂香(けいせいはんごんこう)」。師に見限られ、唯一の味方であるはずの妻にまで悪口を投げかけられた又平の二重に深い絶望を前半で吉右衛門が描き出し、後半の喜びを際立たせた。芝雀のおとくは夫を思う妻の風情をよく出した。歌六の将監、吉之丞の北の方に弟子への思いが感じられる。歌昇雅楽之助、錦之助の修理之助。
次が「素襖落(すおうおとし)」で、幸四郎の太郎冠者が軽妙。最後が「御所五郎蔵」。仁左衛門の五郎蔵がさっそうとし、両花道を使っての仲之町の出会いが華やかだ。左團次の土右衛門、福助の皐月、孝太郎の逢州、菊五郎の甲屋とそろう。
  〜後略〜
毎日新聞 2007年11月15日 東京夕刊

写真は『忠臣蔵九段目』より小浪(菊之助)、本蔵(幸四郎)、戸無瀬(芝翫)、由良之助(吉右衛門)。