劇評

歌舞伎:新秋九月大歌舞伎(新橋演舞場) 花道の姿に悲しみ出た時蔵の尾上
時蔵海老蔵亀治郎らの清新な顔合わせ。
  〜中略〜
夜は「加賀見山旧(こきょうの)錦絵」。「営中試合」から「草履打」「長局」「奥庭」まで。時蔵の尾上が長局の部屋に帰る花道の姿に悲しみが出た。自分を気遣うお初の姿に切なさをかきたてられ、こらえる様子も胸を打つ。亀治郎のお初は利発者らしさの中に尾上を慕う気持ちがにじみ、長局に心の通い合いが感じられる。海老蔵の岩藤は大きさがあるが、セリフがやや聞き取りづらい。梅枝の大姫がかれんで、松也の求女がしっかりとしている。松之助の桐島がおもしろい味わいを出した。
最後が「かさね」。海老蔵の与右衛門が、いい色悪ぶり。亀治郎のかさねは、与右衛門への一途(いちず)さが執念へと変じていく姿をうまく見せた。25日まで。【小玉祥子
毎日新聞 2008年9月17日 東京夕刊

写真は『加賀見山』(草履打)より尾上(時蔵)、岩藤(海老蔵)。