仁左衛門丈インタビュー

歌舞伎:「荒川の佐吉」演じる片岡仁左衛門 共感できる欲のなさ−6月の歌舞伎座
◇6演目のあたり役
片岡仁左衛門が6月の歌舞伎座昼の部で「荒川の佐吉」(真山青果作、真山美保演出)の佐吉を演じている。6演目になるあたり役だ。
佐吉は元大工のやくざ。親分の仁兵衛が、浪人、成川郷右衛門に腕を切られて落ちぶれた後も世話をし続け、仁兵衛亡き後は、幼い孫の卯之吉を育てる。ついには、仁兵衛の敵も取る。
「好きな作品です。道を歩いていても、つい振り返ってしまうほど子供好きなので、他人の子供を育てる佐吉の気持ちもよく分かります」
好きなセリフがある。自分より強いはずの郷右衛門を討つ時に佐吉が唱える「一心具足千人力」の言葉。劇中では「人間捨て身になれば、恐れる相手はない」の意に使われている。
「実生活で大きいものにぶつかる時にも、この言葉を思い出します」
佐吉は大親分、相模屋政五郎(菊五郎)に親分になることをすすめられるが、固辞して江戸を去る。
「佐吉ほど格好良くはありませんが、気持ちは分かる。役者ですから欲がある。大きくなりたい、皆さまに受け入れられたいと思いますが、一方で、山奥で自給自足でこつこつ暮らしたいなんて考えたりすることもある。欲があるから人間は向上しますが、欲がうっとうしくなることもあるんですよね」
下っ端で周囲からも軽んじられていた佐吉だが、後半は人間的に成長し、花が咲いたような男ぶりを見せる。
「元の大工でいれば棟梁(とうりょう)と呼ばれた男だという意味のセリフがあります。最初から『ぺーぺー』でいかないやり方もある。前回は段々に成長して行くように演じました。逆に前々回は、元からそれなりの人間だったように演じた。今回も悩むところです」
もう一役が夜の部の「身替座禅」の玉の井菊五郎演じる山蔭右京の奥方。昼の部とは一転してのちょっと怖い女形だ。右京は、自宅から出してくれない玉の井の目を盗み、愛人の元へ急ぐ。
「恐妻ですが、右京のことがいとしくてしようがない。そこを出せればと思います」
26日まで。問い合わせは同座(03・5565・6000)。【小玉祥子

毎日新聞 2006年6月5日 東京夕刊

写真はインタビュー中?の仁左衛門丈。*1


当初の観劇予定が狂ってしまったこともあり、夜の部は『暗闇の丑松』だけ幕見でいいかな、と思っていたのですが、一昨年の暮れのテレビで同じ配役で観たとは言え『身替座禅』もやっぱり観たいし…と先日切符を取り直しました。*2そしてこちらのインタビュー拝見して、やはり取って正解だなと。
『荒川の佐吉』は当代勘三郎丈の当たり役いうイメージがあり(実際に観たこと無いのに)、仁左さんだとどうなのかな、と思っていましたが、これもやはりこのインタビューで楽しみ倍増です。

*1:スーツにネクタイ姿。

*2:日程の調整が上手く行かず、滑り込みの千穐楽となりました。