劇評

歌舞伎:八月納涼歌舞伎(歌舞伎座) 気のいい芸者生き生き演じた福助
8月恒例の3部制での上演。新作あり、久々の上演ありの狂言立て。
1部の最初が「慶安太平記(丸橋忠弥)」(今井豊茂補綴(ほてつ))。橋之助の忠弥は花道の酔態での出などに舞台を圧する大きさがある。染五郎の松平伊豆守、扇雀のおせつ、市蔵の藤四郎。「近江のお兼」は福助で、愛きょうたっぷり。最後が新作舞踊劇「たのきゅう」(わかぎゑふ脚本、坂東三津五郎、アナザー・カンパニー振り付け)。役者のたのきゅう(三津五郎)は、おろち(大蛇)に襲われそうになるが、機知で危機を逃れる。染五郎のおろちを前に三津五郎が娘、殿様、僧の3役を、こっけいに踊り分けるのが見どころ。老けづくりの染五郎がとぼけた味わいだ。今藤美治郎の曲、金井勇一郎の美術がいい。
2部の最初が「吉原狐」(村上元三作、齋藤雅文補綴・演出)。早とちりで気のいい芸者、おきちを福助が生き生きと演じる。三津五郎の父とその恋人である扇雀のお杉が、おきちの早のみ込みに翻弄(ほんろう)されての困惑をうまく見せる。染五郎亀蔵弥十郎、孝太郎、信二郎、秀調、橋之助ら周囲もそろう。続いて扇雀、孝太郎の「団子売」、染五郎の「玉屋」、三津五郎の駕屋と初舞台の小吉の達者な犬の掛け合いが絶妙の「駕屋」。
3部が「南総里見八犬伝」(渥美清太郎脚色、今井豊茂補綴)。染五郎の信乃がさわやかで、三津五郎の道節に迫力がある。福助の毛野は、対牛楼での敵討ちを気持ちよく見せる。長編を約3時間にうまくまとめたが、駆け足の感は否めない。孝太郎、松也、弥十郎信二郎、高麗蔵、亀蔵と善悪の取り合わせはいい。26日まで。【小玉祥子

写真は『吉原狐』より、おきち(福助)、お筆(秀調)、お杉(扇雀)、釆女(染五郎)、三五郎(三津五郎)。*1


『吉原狐』の写真が使われているというのが意外。『八犬伝』が順当なところという気がするんですが。
しかし本当に色々な観方があるんだなぁ、ということを改めて。某大御所先生など、悪いと言う方はもう取り付く島もないほどのご意見だし、逆に面白いという方もありで。*2

*1:今まで見た劇評の写真の中で、写ってる人数が一番多い写真なんじゃないかと思う…。

*2:某先生の劇評によると、『八犬伝』の福助丈の男女の切り替えが大袈裟過ぎて客席から失笑が、とかなんとか。しかしこれって贔屓目一杯だと思うけれど…客の感覚がおかしいんじゃないかと思うんだよね、私は。先月の鏡花作品と言い、どう考えても笑いどころでないところで笑う(『四谷怪談』などの恐怖に裏打ちされた笑い、などという類のものでなく、所謂“馬鹿笑い”的なもの)、という人が本当に多いですよ。私自身、周りの客のマナーの悪さにここ数ヶ月うんざりすること多々、なので余計にそんな穿った感じ方をするのかも知れませんが。