三響會特別公演



ネタに詰まりましたので久々に感想文を書くことに<おい。*1
「記憶に残っている新しいものから行くか。歌舞伎座夜の部だな。」
…いや、先週末の三響會だってば。


◆27日・夜の部 3階2列中央
 (関連の新聞記事については◇こちら◇


17:30開場だろうと数分前に着くよう行ったところ、まだ昼の部が上演中で17:45開場予定というアナウンスにびっくり。地下で待てるということだったので切符をもぎってもらって入り、身支度を整えてややあり正式に開場。
中に入るとパンフレット売り場に物凄い人が群がり、大変なことになってました。1000円というのは高いなぁ、と思ったのですが取り敢えず買う。しかしこれは買って良かったです。見た目はとんでもないぺらぺらでしたが、*2中身が結構濃い。後で気付いたのですが、“三響會”の文字は玉三郎丈の手によるものだったのですね。これがわかっただけでも私はいいかも、と思いました(笑)。ちょっと遅く行った人は売り切れで買えなかったようですし。
そしてちょっと探しているものがあったので演舞場ならあるかな、と期待していたのですが残念ながら売店に目ぼしい物は見付からず。席へ。
今まで演舞場と言ったら、3B若しくは1階席しか座ったことが無いので全く気付かなかったのですが、3階の2列でも中央だと花道が全く見えないことに驚く。あれなら3Bの袖でない席*3の方が絶対いいよね…。五月の歌舞伎も九月の『魔界転生』もそれなりに見えたもんね。

囃子共演

  一番太鼓
  宴
  めじは
  魔界転生
  獅子


始まる前にパンフレットを読んでいたのだけれど、『一番太鼓』の傳左衛門丈にまず驚いたり。単純に「何でも出来るのね…。」というのから始まり。
その後、林英哲さんの太鼓。迫力というのとは違う、力ではない何かで何かを悟らせるというか分からせると言うか。今までに経験したことの無い何かを感じました。未だにそれが何だったのか分からないのですが…。
『めじは』は、正直今既にほとんど記憶にありません…。『魔界転生』は確かに記憶にある曲でした、パンフレット見ていなかったらわかったかどうかは定かでありませんが(こんなんばっかり)。*4折角の生演奏で筝や三味線の音がスピーカーから流れたのは残念でしたが、音のバランスということで仕方が無いことなんでしょうね。
『獅子』も凄い良かったです。
ここまでで既にかなりの満足度。

藤娘

  藤の精:中村七之助


久々の七之助くんです。五月の海老蔵丈のソレの印象と自然と比べてしまったのですが、やはり今回の方が可愛らしいという点では勝ち、ですかね(笑)。藤の間から覗く姿も、海老たまの時の「藤の花デカイ〜!」とかいう不自然さとか無かったですし。
…でも全体的に、踊りとして観た場合は…七之助くん、こんなに硬かったかな、という疑問が延々頭の中を駆け巡っておりました。後半少しはほぐれてきたな、という感じがしたんですが。*5

歌舞伎・安達原

  老女岩手実は安達原の鬼女:市川亀治郎
  東光坊祐慶:中村梅枝
  強力太郎吾:市川段四郎


内容が『黒塚』だよね、と思っていたのですが、能の観世流での名称が『安達原』とのこと。澤瀉屋亀治郎丈が演じるということで『黒塚』の方が感覚的に馴染むのですが、今回は能の方に合わせての呼称になったようです。…内容的に違うところもあると思うのですがね、『黒塚』と『安達原』。*6
3階に宙乗り小屋が出ていたので、本気で一瞬使うのかと思ったりもしたのですが。*7そんなケレンなど無く、濃厚な一幕でした。
梅枝くんの東光坊、話の内容からするとある程度歳のいった役のようですが、若い僧という風情が舞台の暗い雰囲気の中で逆に光となって、引き締まった感じがして良かったです。*8
強力の段四郎丈も手堅く、忠実に仕えているという感じ。でも覗き見してしまうんですけどね(苦笑)。*9
亀治郎丈の鬼女も、静かな居住まいでありながら恐ろしい空気が流れてきて、前述のように花道は全く見えなかったのですが、それも余り気にならず。引っ込みの時の動きが凄かったという感想をどこかで拝見したので、それが観られなかったのは残念でしたが、まぁそれはそれということで。*10
幕切れの仏倒れ*11や奈落に飛び込んでの引っ込みと、前半の重々しい雰囲気とは180度変わったスピード感溢れる展開に圧倒されました。気付いたらセリが下がっていて、そこに飛び込んでいかれたのは本当に思いもよらないものでした。あれは下で観たのとは全く違ったものがあったと思います。

能・安達原

  シテ:片山清司
  ワキ:殿田謙吉
  ワキツレ:御厨誠吾
  アイ:野村萬斎


能のことは未だによくわからないので、配役は後見・鳴物・地謡まできちんと書くべきなのだろうと思うのですが…割愛。
能が最後ということで、正直、寝ちゃうかも…と思っていたのですが、*12全く問題ありませんでした。歌舞伎を先に観たことで、話の流れがよく分かった、というのが大きいかと思います。
上から見ていると広い舞台を能舞台のように使おうということなのでしょう、照明を舞台上のとても狭い範囲に限定して当てていたのが印象的でした。でも花道はかなり使っていましたね。よもや能で演者が見えないという事態が起ころうとは思っていませんでした(苦笑)。あと後ろに一面、薄が生い茂っていたのも舞台が広いのを埋めるという意味もあったんでしょうか。普通あのような形はありませんよね、能なんだし。
シテの台詞がスピーカーから流れていたのはちょっと、でしたが、それはあれだけ広い劇場で面を着けていては無理からぬ話。
アイの萬斎師*13がダイナミックかつユーモラス。「キャー」の声が未だに耳に残ってます(笑)。歌舞伎の強力とはまた違った“仕える者”。“子供の頃から天邪鬼”的な、言われたことと逆のことをしてきました、というキャラクターに、何となく(根拠不明)下層の者という感じを受けました。あそこで気が緩んだことによって、より後シテの迫力を感じましたね。
最後、拍手してしまったんですが…あの場なら許されるでしょうか…。

*1:感想文より先にコメントのお返事があると思うが…。

*2:よくよく映画のパンフレットとかもこんなもんに毛が生えたくらいじゃないかと思ったり。そう考えると歌舞伎座の筋書ってあれだけ資料的なものとか入っていてカラーありだし、かなり安いんじゃないかという気がしてきた。…貨幣価値狂ってる?

*3:ここがポイント。

*4:しかしこの演奏により、メインテーマであったのでしょう、『柳生十兵衛』の笛のフレーズの記憶が甦り、未だに頭の中で鳴ってます(苦笑)。

*5:こういうことを書くのは失礼だと思うのですが。一般的な評判として、七之助くんの踊りは硬いとか言われていますが、私は今まで本当にそう感じたことが無かったんですよ。色々な方の色々な踊りを拝見してきて、少しは見る目が出来たのかな、とも思うのですが、この日は何かおかしかった気がします。日によってコンディションが違って出来が左右されるということもあるでしょう。私が今まで観てきた七之助くんの踊りが全て“当たり”だったんでしょうかね…。贔屓目一杯だったということもあるかと思いますがそれにしても。

*6:確か『黒塚』だと強力という役名では無かった気がするんですが(さっと調べてみましたが有用な情報見付からず)。そしてなんだかんだ言いながら、『黒塚』を拝見したことがない私。

*7:11月の稽古のためだったのでしょうが、席が少なくて切符争奪戦というのを思うと、あのスペース分がとても勿体無く感じて仕方がありませんでした。

*8:鬼女が襲ってきて調伏しようと祈っていたところで数珠を落としてしまったのだけれど、気にならず。…落としちゃったのよね? アレ。

*9:前述の新聞記事にあるように、“伝説”として今回ご出演という形だったようですが、台詞がつかえてしまい、プロンプの声が3階まで聞こえてしまったのが残念でした。しかし以前の大病の為に台詞が入りにくくなっているらしい、ということをどちらかで拝見したのでこれは仕方がありませんね。

*10:見えなかった、と言えば、背景に描かれた大きな三日月が1/4くらいしか見えなかったのもちょっと残念。これも3階なので仕方の無いことですが。

*11:という言葉は正しいのかな?と検索してみたところ、直立で倒れる形を指すらしいので良い模様。別名“枯れ木倒れ”とも言うそう。ちなみに能でもこの演出というのはあるとのこと。どうも“仏倒れ”と言うと『義賢最期』のあの形だけなのでないかという気がしてしまいますね。今回は倒れて床に顔が叩きつけられる寸前に両手をガッとついていました。あれはあれで凄かった。

*12:この日は前日よりとても体調が悪くて、かなり弱っていました。歌舞伎衣裳展に行くのは止めようかと思ったくらい。実際は衣裳展を拝見してむしろ調子が上がったんですが。演舞場着いてからまたちょっと怪しい感じになってまして。

*13:歌舞伎役者さんの敬称は“丈”ですが、能楽師さんは“師”なのですね。私は書き言葉には“丈”を使っていますが…最近特に、知識の乏しさゆえ使い分けが難しいなと実感すること度々なので(例:鳴物さんの敬称はどうなの、とか)身の丈に合わないことは止めるべきではとひしひし感じています。今更止められないというのもあるんですが…(結構“××丈”という検索ワードで来られるパターンがあったりもするし)。