劇評二題


歌舞伎:團菊祭五月大歌舞伎(歌舞伎座) 好配役で見ものの白浪五人男
團十郎(だんじゅうろう)、菊五郎が、昼夜に出し物をし、顔を合わせる。
一番の見ものは夜の「青砥稿花(あおとぞうしはなの)紅彩(にしき)画(え)(白浪五人男)」の通し。菊五郎の弁天、團十郎の駄右衛門、左団次の南郷、三津五郎の忠信、時蔵の赤星という好配役が、筋の説明に陥りがちな、5人が一味となるまでの経緯を描いた序幕を見応えあるものとした。梅枝の千寿姫が初々しい。
「浜松屋」は菊五郎が自在。ことに男と見破られた際の表情の変化がいい。左団次、團十郎梅玉の鳶頭(とびがしら)と周囲もそろう。橘太郎の番頭の間合いがうまく、東蔵の幸兵衛、海老蔵の宗之助が手堅い。「稲瀬川」にはそれぞれの持ち味が出た。富十郎の青砥藤綱が締めくくる。
  〜後略〜
毎日新聞 2008年5月21日 東京夕刊

写真は『白浪五人男・稲瀬川勢揃の場』。

歌舞伎:五月大歌舞伎(新橋演舞場) 伊右衛門の不気味な変化に見応え
吉右衛門を中心とした公演。
夜が「東海道四谷怪談」の通しである。吉右衛門初役の伊右衛門は「浪宅」で岩への冷たさを示し、「隠亡堀」で殺人にためらいがなくなり、「蛇山庵室」では幽霊に追い詰められての心身の衰弱を見せる。よりどころがなく、どこまでも流される不気味なまでの変化に見応えがある。
福助の岩も初役。伊藤家からの品に、繰り返し礼を言う純粋で愛らしい女が、毒を飲まされ、夫の裏切りを知り、生きながら悪鬼のようになる。心の揺れが明らかで、哀れさも出た。歌六の宅悦がうまく場面を展開していく。段四郎の直助、芝雀のお袖、染五郎の与茂七ら周囲もそろう。
  〜後略〜
毎日新聞 2008年5月21日 東京夕刊

写真は『東海道四谷怪談・元の浪宅の場』。