劇評

歌舞伎:大老国立劇場) 苦悩する直弼像見せた吉右衛門
十三回忌追善となる北條秀司の作品の通し上演。北條・織田紘二演出。井伊直弼が落命するまでの半生を吉右衛門主演で描く。
  〜中略〜
序幕の「埋木舎」で仏門入りを仙英禅師(段四郎)に願うほどに世をすねた風情と井伊家継嗣に決まった喜びの表情を、吉右衛門がうまく対比させた。桜田門外の変の前日である「井伊家下屋敷一室」では、お静との情愛を切々と見せる。作中一の場面だ。
魁春がお静を娘らしい風情を残す愛らしい女性として描き、梅玉は理念を守り通す主膳のひたむきさを表現した。芝雀が鷹揚(おうよう)な雰囲気を出し、段四郎がひょうひょうとした高僧ぶりである。27日まで。【小玉祥子
毎日新聞 2008年10月23日 東京夕刊